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エピローグ
その日は一日中検査だった。記憶喪失のときにやった検査をもう一度一通りやると一日の大半が過ぎ去ってしまい、夕方には病院を後にして自宅へと歩を進めることができた。記憶が戻った原因については、朝ベッドから落ちたときに丁度いい具合に頭をぶつけたため、その衝撃で記憶を取り戻せたと言うことに落ち着いた。帰り道はハルヒが家まで着いてきて一泊して帰ったのだが、その話は今度することにしよう。
退院してから数日が経過していて、今俺は珍しく一人きりの部室でみんなを待っている。
そういえば前日には長門の家にお邪魔したが、長門は何も言ってくれなかった。どういう意図があったにせよ長門が何も言わないということは平和である証拠だし、何か長門も満足そうだったから良しとしよう。その日の俺は長門製のお茶を数杯飲んで心安らぐ沈黙空間を堪能して帰宅した。っと、噂をすればなんとやら。件の長門が音も無く入場してきた。
「よう、おそかったな」
無表情であることと無言であることは相変わらずだが、俺の瞳をターゲットにしたその澄んだ瞳には何かを楽しみにしているような感情が見え隠れしている。
コンコンとノックの音がしてドアが開いた。そんな可愛らしいノックをする人を俺は一人しか知らない。姿を現したのはもちろん、いつ見ても可愛らしい永遠の17歳と名高い朝比奈さんである。
朝比奈さんは俺と目が合うと照れくさそうに、どこと無く嬉しそうに微笑んでメイド服に手をかけた。俺は自分でもわかる締りの無いニヤケた顔をそのままに、暗黙の了解で部屋をでた。もちろん朝比奈さんが俺にそんな態度を取った原因であろう昨日の夜の電話の内容については内緒だ。
朝比奈さんの着替えを待ってると古泉が出現した。壁に寄りかかりながら俺は目で朝比奈さんが着替え中であることを古泉に伝えると、古泉は俺の横で同様に壁にもたれた。古泉は何も言わずにニコニコしていた。いつもよりか3割り増しでスマイリーなのはきっとハルヒの精神状態が安定したからなのだろう。きっと閉鎖空間もでていないに違いない。
俺は古泉を横目でチラリと見やって、柄にもない事を言ってみた。
「この学校に場所を限定して性別を男子に絞ったら、間違いなくお前は俺のベストフレンドだよ」
古泉は一瞬ニヤケ面に驚きの成分を混ぜたあとですぐに消化して、
「光栄です」
涼しい顔で返答をよこした。
きっと俺にとっては場所も性別も関係なく、こいつとは親友と呼べる間柄なんだろうな。
やけに遅かった朝比奈さんの着替えが終わったことを何故かハルヒの声で告知されて部室に入ってみると、そこにはさっきまでいなかったはずのハルヒに加え名誉会長の鶴屋さんまで発生していた。いったいどういった原理で部室に出没したのだろうか。ハルヒと鶴屋さんのコンビならなんでもできる気はするが。
部室に入るや、何故かグツグツと音を立てる土鍋を目にしながらハルヒのありがたいお言葉を待った。
「さて、今日はバカキョンの退院を記念して鍋パーティを開催いたします!新郎は一歩前へ」
新郎とは誰のことだろう。この部屋に男はニヤケ紳士と俺しかいないが。
「あんた記憶と一緒に微かに残っていた知性まで失ったの?」
どうやら俺のことらしい。では新婦はいったい誰だ?もちろんここにいる女性陣はみんな魅力満載の美人がそろっているから誰が来ても俺は幸せの絶頂を迎えることは間違いないが。
「じゃあ新郎のキョン。汝健やかなる時も独身でいることを誓いますか?」
はい、お約束。
はぁ、とため息を一つ吐いてお決まりのセリフを言わせて貰おう。
「やれやれ」
ハルヒはきっとこうやってバカやってるのが楽しくてしょうがないんだろう。この世界を好きになってくれたなら閉鎖空間はもうでることもあまりなさそうだ。
「おいハルヒ。司会進行やるならついでに新婦も兼任してくれ。生涯独身は悲しすぎる」
「なんであたしがアンタの嫁にならなきゃならないのよっ」
顔を真っ赤にしてそんなに否定するな。
「なら長門、俺の新婦になってくれ」
「いい」
どっちの「いい」なんだ。
「キョンくん大胆だねぇ、プロポーズかいっ?」
「あ、あの、わたしが・・・」
俺もこんなバカやってるのは大好きだけどな。心の中で呟く。
ありがとよ、ハルヒ。こんなに楽しい部活に引っ張り込んでくれて。
そして、これからもよろしくな。SOS団。